んです。実はねえ、ボクは三四年前から陰毛で毛筆をつくることを考えて、旅先なんかで旅館の部屋のゴミを集めてもらって、陰毛を探しだして毛筆をつくってみたです。非常に、いいですね。イヤ、これはね。まだ生えてる陰毛をぬいて造っちゃいかんです。自然に抜け落ちたような毛が頃合なんですね。そこで、ボクの一生の念願と致しまして、崇拝する美女の陰毛をあつめて、一本の筆をつくりたいのですが、そういう失礼なことをボクの口から花子夫人に云うわけにいかないので――いえ、ボクはね。軽率だから、本当のことをつい口走る怖れがあるです。花子夫人の居間と寝室のゴミを毎朝晩集めて恵んでいただくように頼んでくれませんかねえ」
「今にも追放の危機に際して、そのようなことが願えますか」
「ウーン。そうか」
「しかし、その楽天的なところが、狂六先生の値打ですな。我々の思想はもう古いです。先生のその新思想をもって、なにとぞこの危機を打開していただきたく存じます」
さすがに神蔭流の達人は緩急を心得ており、並木先生のように、狂六の失言に面と向って難詰するような至らぬところがない。結局、神蔭流の極意によって、狂六はジリジリと追いつめられ
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