やうな憫みかたで私の人生に忠告を与へてくれるやうに思はれたわ。雨宮さんが帰つてしまふと奇妙な人だわと思ふくらゐで、あの人の言葉なんか滅多に思ひ出しもしなかつたけど、知らないうちに、私もだん/\その気になつてゐたんだわね。貴方に始めて会つたでせう。あの日ハズと相当深刻な喧嘩をして、今日こそ別れてしまはうかと考へたりしてゐるところへ雨宮さんがやつてきたの。私が喧嘩の話をして別れようかと思つたほどよと何の気なしに言つてしまふと、あの人ひどく真剣な顔付になつて、そんならすぐにも家を出なさい、一緒にでませう、愉しく暮すことのできるやうな男の友達も紹介してあげるし、なんとかして生活も困らないやうにしてあげる、然し自分自身にはその資力もなし野心もないからつて言ふんだけど、あの人の態度はその時がいつよりもいつと真剣で厳粛で大きな憫れみが籠つてゐるやうで、あの人自身の野心なんか一つだつて見当らない様子だから、ほんとに頼りになると思つたのよ。まるで魔術にかけられたやうにふら/\家を出ちやつたの。でも貴方のおうちへ始めて伺つて、この人は女優になりたいさうだけど、なんて言ひだされた時には吃驚したわ、どうせ貴方
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