気で怒つてゐないのを見抜いて、案外落付いてゐるやうだつた。
「それに、君も教へてくれないし、あの人も言つてくれないものだから、まさかに君とあの人の関係が二号といふやうなことに進んでゐると思はなかつたので、さう素ばしこい君だとは思はなかつたから、それほど心配もしてゐまいと多寡を括つてゐたのがいけなかつたんだ。それを知つてゐれば一応君にことはつてから引越しも運んだらうし、用向きを蹴飛ばしても早く教へに来た筈なんだ」
紅庵は別に恨みがましい様子でもなく、ただすら/\とさういふ言ひ訳をしたのだが、この言葉は後々まで伊東伴作の頭に残つて離れなかつた。ただ女を養つておくといふだけの男が毎日々々午後三時から深夜まで女の部屋に居浸りといふ莫迦な話もないもので、誰が見ても男の二号であり女の旦那であることは分る筈だ。紅庵が独身者で情痴の世界にうといにしても信じられない話で、殊に紅庵は潜在的な性慾に疲れた人がもつところのその方面には特に鋭い電気のやうな感応と想像力を具へてゐるから、常人よりもよつぽど素早く二人の関係が見抜ける筈だと思はずにゐられなかつた。なるほど紅庵自身の方は女の部屋へ喋りにくるだけで満足
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