修正して満足し、それとは別のところにある大きな秀吉を不当に抹殺してゐる小ざかしさを憐れみ蔑んだ。そして秀吉への修正的な好意を受ける大名達は喜ぶよりも煙たがり、内心はうるさがつてゐるのであつた。
 秀頼が淀君の腹に宿つたときから、秀次はその宿命に暗い陰のさしたことをすでに漠然と戦いてゐた。彼は秀吉の外征すらも自分に対する陥穽がその本当の意味ではないかと疑つた。彼が異国に執着するのはそこへ自分を封ずるためであり、ていよく日本から追ひだすためだと考へる。それは筋の立たない妄想であつたが、人の企みは首尾一貫筋を要するものではなく、偶発し、事態の変に応じて育つものである。時々遠征から戻つてきて祗候する大名達は彼が老齢の太閤に変つて遠征軍の指揮を引受けて申出ることをほのめかしたが、そこが秀吉の思ふ壺だと考へた。然し、実際の心情は現実の快楽に執着しすぎ、戦野の労苦に堪へる心がなかつたのだ。その言訳の妄想だつたが、俺が異国へ行く、あとの日本は親子水入らずさ、悪魔的な陰鬱な笑ひをもらす秀次には、憎悪と裏切りの快感だけが心の底に埃のやうにつもつてゐた。
 彼の心は連日の深酒と荒淫で晴れ間のない空の如くに陰
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