芋のやうに斬り殺され、河原の隅に穴がほられて、高野から運び下された秀次の死骸と合せて投げこまれて、石が一つのせられた。その石には悪逆塚と刻《ほ》らせてあつた。
秀吉は子供の頃を考へる。彼は悪童であつた。放恣であつた。然し、そのころが、今よりも大人のやうな気がするのだ。何かの鞭を怖れてゐた。怖れのために控えてゐたが、やりたいことはやつてゐた。秀吉は悟らないのだ。人間は子供の父になることによつて、子供よりも愚な子供になることを。
秀次を殺してみたが、秀次よりも大きな影がさらに行く手にたちこめてゐた。家康の影であつた。それは全く影だつた。つかまへることができないのだ。秀次の身体といのちは彼の我意と憎しみが掴んで引裂くことができた。然し、家康の影は、彼の現身《うつしみ》と対応せず、その凋落の跫音と差しむかひ、朝鮮役の悔恨や又諸々の悔恨の影の向ふに立つてゐた。悪童の秀吉は見えざる母の鞭の影と争つたが、その影のやうに遥かであつた。
秀吉は病床に伏し、枯木のやうに痩せ、しなびてゐた。骨をつゝむ皺だらけの皮のほかに肉があるとも見えなかつたが、不思議に心が澄んでゐた。たゞ妄執の一念だけが住んでゐた
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