未だしである。肝臓の機能は? 脳味噌の機能は? それも判然とはしない。貧乏人をなくする方法は? それも判然とはしない。文明などというものには、まだ大そう道が遠いのである。法律ですら、まだ親殺しという特罪が残っているような実状である。
 私はしばらく帰省しないので、谷川岳の姿にも久しく接していないが、今回の事件であの秀麗な山容を思いだし、なつかしむこと頻りであった。人間の拙さ、無智と、その悲しい罪が、あの清涼な山のごとくに、身にしみる。五人の霊と共に、人間の拙さも、同じように、あわれまれてならない。
 新年号であるから、風流について一席談じてくれということであったがこれが風流譚かどうか、まことに、おはずかしい次第です。
 末尾ながら、明けまして、おめでとう。ウソつけ。今日は何日だ。そうか。いつだって、明けまして、おめでたいや。アバヨ。



底本:「坂口安吾全集 09」筑摩書房
   1998(平成10)年10月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四八巻第一号」
   1951(昭和26)年1月1日発行
初出:「新潮 第四八巻第一号」
   1951(昭和26)年1月1日発行

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