も姐御も、ワカラズ屋という点では、甲乙ない。しかし、姐御が筆の隙間から、目のさめるような酷薄ムザンな正体をさらけだすのにくらべると、旦那はヤカン頭の湯気をポッポッとさらけだしているだけで、トンデモ・ハップンの姐御に円みがないだけ、イキがいいし、目ざましい。この殺人事件を法廷で争うと、とても通人の旦那に勝味はない。
 由起しげ子さんの話によると、彼女の良人たる(あるいは離婚せるやを知らず)I画伯は、アイツが芥川賞になるなら、オレがなれないはずはない。アイツのことを書いて芥川賞をもらってみせる、と、小説の製作にとりかかったという話である。
 大そう面白い話であるから、
「本当に芥川賞がとれるような小説ができると愉快だな。書けそうですか」
「とても利口で器用な人です。何をやっても、私よりもすぐれてますから、小説も私よりは上手にきまっています。私が芥川賞をもらったぐらいですから、もらえるにきまっています」
 と、彼女はニコリともせず答えた。私はさッそく某誌の編輯者に、
「Iさんのところへ小説をもらいに行きたまえよ。面白そうな小説ができるらしいぜ」
 とケシかけると、彼も大乗気で出かけた筈である
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