ているのは、新聞の報道だけだ。まだ捕縛されたばかりだから、彼に関する報道はまったくジャーナリズムの紋切型の観察や断定だけで、彼の個性を伝えていると思われるものはない。こういう際物について不足な資料で感想をのべるのは好ましいとは思わないが、目下の私の状態では、ふと気がついた感想以上に、思考力をまとめることができないから、仕方がない。
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「世間から色々と取沙汰されて居る様に、僕等の世代ゼネレーションと云うものは「アプレゲール」俗に云う戦後派ですが、今度の犯行に関し僕等が特別アプレ的だったと見られるのは不愉快です」(原文のまま)
手記の書きだしである。私のところへ原稿を送ってよこしたり、手紙で弟子入りを申込んでくるうちで、箸にも棒にもかからないという低能に限って、これと同じような文章をかくのが普通である。つまり、自分を単純な戦後派と見ないでくれ、自分はもっと独自な苦悩している人間だということを前書きしているのである。
もっとも、こう思っているのは低能に限らない。ただ利巧者はこんなことを書かないし、書いても、書き方がバカらしくない様式をととのえているだけの相違かも
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