」といっていることが、彼にとっては実に悲痛な現実であるということがよく分る。佐文を満足させるには共かせぎぐらいではダメなのである。それを、しかし、自分の罪と見ている山際は、やっぱり一貫して、ナンセンスで無邪気な男だろうと私は思う。
 さて、私は結論として、冒頭の一句にかえろう。
「恋をするにもゲル」
 人生に夢をいだき、ロマンチストとして、ウェルテルの如く恋をしようとしても、現実はせちがらく金銭万能で、恋をするにもゲルがなければダメ、というような、思いもよらないハメに追いやられてしまうという。
 彼は佐文を宿命の女と見、かぎりない愛情をもっていつくしんでいるようだから、彼女を恋するにゲルが必要だということを呪っているわけではないだろう。自分の場合と切り放して世間一般の風潮として論じているつもりかも知れない。
 しかし彼は気がつかなくとも、恋をするにゲルが必要だという性格は、佐文の負うている宿命のような気が私にはする。彼女は身持がかたく、山際に処女をささげただけであるというが、しかし、その問題とは別に、恋よりも金、恋よりも華美な生活、そういう思想を身をもって帯びているのが佐文のように思わ
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