津《てんしん》から、南は南京の対岸まで、黄河が流れた跡なのである。
潼関から上流の三千余キロというものは、河南、山西、陝西《せんせい》、甘粛《かんしゅく》の黄土層を流れてくる。
華北には雨季という特別のシーズンはない。時に、三日から十日ぐらいドシャ降りの降りつづく時がある。春先に多いが、他の季節にもある。黄土層にこのドシャ降りが降りつづくとつもりつもって黄河の大洪水となるのである。
黄土層というところは木も草も一本ないハゲ山だ。ドシャ降りになると、山肌には無数のヒビができて、ヒビの中から泥の奔流がシブキをあげ滝となって斜面という斜面を落下して黄河へあつまる。これが深さ十数メートルの泥の流れとなって、シブキをあげて海へ走るのであるが、黄河の水は俗に水一斗につき泥六升という伝えがあって、だいたいに於て五〇パーセントの黄土を含み、水の流れではなくて、泥の流れなのである。
この泥が黄河の底へたまるから、大雨のあとでは河床は一どに一米の余も高くなり、やがて平地よりも十数米も高くなってしまう。堤を高くしても追っつかない。二三十年目には、どうしても大洪水を起すという必然の運命になるのである。
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