実にどうも全く目的というものの立てがたい毎日に、黄河という課題を与えられたのはモッケの幸いであるから、さッそくシナ研究所というようなところを訪ねて、学者たちから黄河について教えてもらう。しかし、黄河そのものは日本のシナ学者の研究対象ではないらしく、
「おききしたいのは、こッちですが、今の黄河はどこへそそいでいるんですか」
と質問をうけた。ハッキリした発表がないから、黄河がそのときどこへそそいでいるか、シナ学者でも知らない筈であった。当時は揚子江へそそいでいた。
学者たちがかき集めても、黄河に関する文献というものはいくらもない。当時入手しうるものほぼ全部をあつめて三十冊ぐらいのものであった。私はこれを空襲の合い間合い間に、ひっくりかえって、毎日読んでいた。読めば読むほど黄河という河はおもしろい。自然華北の農業とか、風習、文化、生活、歴史、それらを知りたくなる。私は商売をウッチャラかして、半年間この読書に没頭した。すると、戦争が終ってしまった。
黄河は二三十年ごとに大洪水を起す。河南の潼関《とうかん》までは山地であるから洪水にはならないが、ここから先の海まで五六百キロの平地は、北は天
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