我が人生観
(四)孤独と好色
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)出会《でくわ》した

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)偶然|出会《でくわ》した
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 下山事件が他殺か自殺か我々には分らない。しかし科学が証明した結論を信用する方が穏当だから、一応他殺としておくことに異論はない。もっとも今の鑑識科学というものが、どこまで正確なものか、これも素人には見当のつかないものである。
 私は自殺説をとるわけではない。しかし下山氏の場合に、自殺も甚しく可能であったとは思っている。
 私自身の経験から考えて、突発的にメランコリイにおちこむ場合と、ジリジリふさぎこんで衰弱狂化していく場合と、同一人でも二ツの場合がありうるものだ。しかし本人にとっては、どッちでも変りのないものであるが、他人の目から見て、別の場合に見えるにすぎないものである。
 他人の目には突発的でも、当人にはそうではなくて、他人には分らないように、努力し、抑制していたものだ。この場合、彼のメランコリイは彼自身の抵抗にさえぎられて外面へ発散することを抑えられているが、病状は悪化し、
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