人に甘えるという関係ができると、発病し易くなるのである。甘えるものがなければ、精神病は起らない。
 甘える対象は父母とか女房子供には限らない。会社の同僚、友人、先輩、保護者、上役、いろいろ有りうる。私のように、多くのものを根柢に於て無関心の関係におくことができて、多くの人からも土地からも、いつでも勝手に去ることができる立場の者とちがって、一般の人々は、家からも職場からも去ることができないような不自由な生活――言い換えれば、甘えざるを得ぬ生活をしているものだ。私のように物を突き放してサッサと去ることはできないから、屈して甘えざるを得ない。何ものかに甘えざるを得ず、甘える対象ができると、精神病は発病しやすくなるようである。
 精神的な孤独人――実は非常に交友関係がひろく、世間的な生き方をしている人でも、いつでもそれを突き放し、それを去ることができるような、根に無関心が土台になっているうちは、精神病が起りッこない。(あんまり、あたりまえすぎるかな?)
 つまり、精神病というものは、内臓疾患のような必然的な病気じゃなくて、他とのマサツや、そこから脱しがたい関係があって、発してくるものだろうと思
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