。どこを歩いているか見当がつかない。しかし、たしか、電車が通っていたはず。線路が近かったはずだが。……
 こうして彼の絶望感孤独感は深まる一方で、ついに自殺を選ぶに至ったかも知れないし、又、その途中に、暴漢に殺されてしまったかも知れない。しかし、衣類や所持金や高価な腕時計などが盗まれなかったところをみると、偶然|出会《でくわ》した暴漢に殺されたのではないようだ。計画的殺人か自殺かのいずれかであるらしい。

          ★

 以上は、下山総裁に自殺の場合もありうることを想定して、そのエスキスを試みたにすぎない。
 私は自分の病気中の経験から判断して、人間は(私は、と云う必要はないように思う)最も激しい孤独感に襲われたとき、最も好色になることを知った。
 私は、思うに、孤独感の最も激しいものは、意志力を失いつつある時に起り、意力を失うことは抑制力を失うことでもあって、同時に最も好色になるのではないかと思った。
 最後のギリギリのところで、孤独感と好色が、ただ二つだけ残されて、めざましく併存するということは、人間の孤独感というものが、人間を嫌うことからこずに、人間を愛することから由
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