く方法のちがうものだから、いっぺん、つくってみたくなるのだ。発想法も、表現の角度も、現実の捉え方も、全然ちがう。だから、時々、ひとつ、つくってみたいな、と思うのだ。
私はいちど日映にいたこともあるから、いくらか、映画の社会を知っているが、しかし、素人の域を脱しない。だから、誰か演出の助手が必要だし、音楽家との密接な共力の必要のことなど考えると、そういう人間関係の煩労に、考えただけでも堪えられなくなってしまう。
結局、小説を書いてるほかに手がないということになる。事、志とちがう点も、なきにしもあらず、なのである。決して、物臭さではない。時々、やりはじめるが、完成しないだけなのだ。
★
私は、弟子というのも好きではない。私は誰の弟子でもなかったが、誰の先生になりたいとも思わない。
第一、弟子というものが、先生に似たら、もう、落第だ。半人前にもなれやしない。自分に似たものを見るのは、つらい。
しかし、芥川賞の選者をひきうけてから、責任を感じているので、なるべく同人雑誌に目を通すだけの殊勝な心を起すようになった。私が人のためにしてあげられることは、それだけだ、
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