りを持たないように心がけているのである。私は大学の先生方のようにウヌボレ屋のヒマ人とちがうから、とても、あなた方に物は教えてあげられない。私は書くのが商売で、みんな書いておく。あとは魂のヌケガラだから、書いたものを読んで、どうなと解釈すればよろしいのだ。
 昨日、このモミジという旅館へ遊びにきていた四人の女子大学生がある。
 レコードを一時間ほどジャン/\かけておいてから、廊下から首をだして、
「あの、レコード、邪魔ですか」
「やむを得ん」
「私たち、大学の新聞部の者ですが、お話きかせて下さい」
「ダメ、ダメ」
 ひっこんだ。しかし、二三分すると、また、顔をだして、
「ダンスしましょう」
「ダメ、ダメ」
 ひっこんだ。彼女らはヒマ人であるから、まことに、なれなれしい。しかし、ヒマ人の甲羅をへていないから、執念深く食いさがったり、アイクチを突きつけて脅迫するようなところがなくて、まだ、よろしい方だ。ダンスしましょう、というのは彼女らの地道な生活であって、貴下の政見は? などという足が宙にういてるヒマ人の言葉よりは数等よろしいだろう。
 こういうと、私がいかにも物臭《ものぐ》さで、なんにも
前へ 次へ
全16ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング