夫と私との中間には、幾人かの男と交渉があった。それを女房はある程度までは(と私は思うが)打ち開けていたが、私もそれを気にしなかったし、女房も前夫と結婚中は浮気をしなかった、私と一緒のうちも浮気をしない、浮気をする時は、別れる時だ、ということを、かなりハッキリ覚悟している女であった。
 私は心理の表現に、カナリだとか、イクラカだとか、数量的にこだわるタチがあるのだが、持って生れた根性で、どうしても、そうなる。心理の数量上の微妙さが頭にからみついているのである。時々、それを全部払い落したくなる。そうすると、全部の説明を省く以外に手がなくなる。この方法で、気持の一端を満足させるが、他の気持をギセイにした不満によって、苦しむ。これは私の職業上の秘密の一つだ。
 女房は、私からでなく、他の誰かしらから病毒をうけたかも知れないという可能性はあるのだが、それによって、私自身の罪の意識を安心させるワケにもいかない。
 私は女房のニンシンの話をきいて、まず病毒のことを考えて、暗くなった。
 それからニンシン日時をかぞえてみて、その期間に(正月前後だが)酒も過度に飲んでいるし、催眠薬も、覚醒剤も、のんでい
前へ 次へ
全23ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング