じで、即日、ダタイ手術したそうだが、胎児はすでに死んでいたそうである。
「ダタイ手術も、お産も、疲れは同じことです」
と、天城さんは女房に同情した。私は哀れを覚えて、使いの者にさらに余分の金を届けさせたが、女房は雑誌社からも原稿料をとりよせ、退院と同時に銀座に現れ、所持金使い果して、悠々御帰館であった。
女房は私に買ってきたミヤゲの品をくれたが、ダタイ手術の報告は一言もしなかった。私も、きかなかった。女房が私にミヤゲをくれる時は、自分がその十倍ぐらいの買い物をした時にきまっていた。
「お前はダタイして残念がっているかも知れぬが、その方が身のためだってことを気がつかないな」
私は深夜に起き上って、机に向い、机の向うに見える女房の寝姿を見ながら考えた。
子供が生れなくて良かった、ということの方が、ほとんど私の気持の全部を占めていた。
私は元々、女房と一しょに住むつもりではなかったのである。私はどのような女とでも、同じ家に住みたいと思っていなかった。
私は彼女に云った。
「家をかりてあげる。婆やか女中をつけてあげる。私は時々遊びに行くよ」
彼女はうなずいた。私たちは、そうするツ
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