対して、私はかなり爽快ですらある。現在苦しいのは、深夜の寒気と、眼の痛みだ。
 伊豆の山々は炭焼き地だから、炭はいくらでもあるが、私は炭酸ガスに弱いので、炭火をおこして仕事をすると、頭痛がし、メマイがし、全身の関節の力がぬけ、喪失状態にちかづいてくる。電気でやると、ヒューズがきれる。温泉につかる以外に仕方がないが、私の家の温泉はぬるくて(三十六度ぐらい)冬の用に立たないので、加熱しなければならない。それにしては、よく、やった。家族の協力のタマモノだ。女房は私の仕事の苦痛をやわらげるためなら、深夜に寒風の吹きすさぶ戸外でお風呂をわかすぐらいは平気であり、そんな時には、自分よりも私の方を大事にしていることがハッキリしている。それを自分の仕事だと思っているようである。その代り、私に無断で、容赦なく彼女はサラリーを消費する。女房というものが職業なら、彼女は私以上に高給をとっており、税務署は私の代りに彼女から取り立てるべきかも知れない。
 眼の痛みは、老眼と近眼のゴチャまぜから視覚が狂い、視力の減退と変調にともなう眼の過労の結果のようだ。すこし読書して眼をとじると、涙がにじみ、眼の焼けつくような
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