そうだ。南雲さんは婦人科医だが、そんなことはお構いなしに、ムシ歯以外は南雲さんに委せッ放しにしていた。ずいぶん柄の悪いことまで、お手数をわずらわしたが、先生も、看護婦も、みんな親切であった。
どうも、私のように、過労を覚悟の仕事をしていると、仕事の責任は自分でもつが、身体の方は信頼できる先生に委せきった方がよい。その安心感で、瑣末な心配は忘れられるし、これ以上はどうなっても仕方がないのさと覚悟もつく。
蒲田にいた時は南雲さんにお委せしていたが、事ある場合だけで、平常は没交渉であった。
伊東へきてからは、天城さんに、毎日健康診断していただく。毎日、ブドウ糖とビタミンをうっていただく。これは大変いゝ方法であった。私はよくカゼをひくが、毎日診てもらっていると、今日はカゼだな、熱があるな、と思っても、安全感から、先生のすすめて下さる服薬を辞退するような気持になり、毎日先生にかかりながら、たいがい我流で処置している。安心感から逆にそうなるのである。
そして、これ以上のことは仕方がないと見きわめがつけば、どんな過労に対しても、労働のよろこび、完成のよろこびを主にして暮すことができる。過労に
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