従者二名をしたがえて、薗原村の伊之吉宅に出向いた。庭前には竹矢来をめぐらして試合場の用意ができていたが、実は竹矢来の外、屋上や樹上に弓矢鉄砲を伏せ、房吉を狙い討ちにしようという作戦だ。
山崎はまず房吉を座敷に招じ入れた。そのフスマの陰には槍ナギナタの十数名が隠れていて、合図に応じて房吉を庭へ追い落す手筈になった。
山崎は房吉に盃をすすめ、二杯重ねさせたのち、
「さて、お礼の肴を進ぜよう」
立って刀をぬき房吉の鼻先へ突きだした。もとよりユダンはしていない房吉、そのときはもう飛び退いて立っており、
「かたじけなく頂戴しましたが、さて、次のお肴は?」
悠然と四方をうかがっている。この時山崎の合図によって、一時にフスマをあけ放たれ、槍ナギナタの十数名が現われて房吉に迫ってきたが、房吉は彼らを制し、
「慌てることはござるまい。逃げも隠れもいたさぬ。だが、その肴を頂戴いたすのはこの房吉一人のはず。従者に肴はモッタイない。二名の者を帰させていただき、ゆるりと肴を頂戴いたしましょう」
二名の従者を邸外へ去らしめ、自身は庭へ降りて、刀も抜かずに突っ立って相手を待った。
山崎は槍ナギナタにまも
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