られて庭へ降り、
「房吉。用意はいいな。師弟の縁によって、伊之吉の無念をはらしてつかわす。神道一心流の太刀、受けることができるかな。それ、存分に食うがよい」
太刀をふりかぶり、まだ房吉が刀も抜いていないから、これ幸いといきなり打ってかかった。その瞬間に房吉の刀はサヤをぬけて走った。
房吉が先に刀をぬいて相手の出を待てば、弓鉄砲の洗礼が先に来たかも知れぬところ。運を天にまかせ、わざと刀をぬかずに出を待った房吉苦心の策。しかし、神技怖るべし。構えた刀をふり下した山崎よりも、刀をぬいて斬り返した房吉の剣が速かった。山崎の肩を斬った。山崎は肩から血をふいて、よろめいたのである。ただマがちょッとあきすぎていたから斬りつけたのは剣先で、致命傷には至らなかった。
槍とナギナタが一斉に迫ってきたが、房吉が要心を怠らぬのは、それではなくて弓鉄砲だ。竹矢来の外、そして頭上などに伏せてあるに相違ないのは大方見当がついている。その攻撃をそらすには竹矢来の外へでるのが何よりであるから、彼の心は刀をぬかないうちから竹矢来を越す方策に集中していた。房吉は逃げるとみせて、かいくぐり、敵の後へ走って竹矢来をとびこ
前へ
次へ
全25ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング