。口をあけて、息をしてゐた。
「ミヅ……」
 私は見廻して水をさがした。彼の最後ののどの乾きを医《いや》さずにゐられやうか。私は然し一つの閃く考へのためにピリピリした。私は彼を見つめた。苦しげであつたが、どこか安らかな翳があつた。私の胸はみちたりてゐた。私は私のクビを切つた。私はうつぶした。私のクビのきり口が彼の口に当るやうに。私の血の噴水が彼ののどの乾きをみたす楽しさに、私はうれしかつたのだ。私の胸は燃えてゐた。そして冷めたく、冷静だつた。そして、すべてが、分らなくなつた。



底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
   1998(平成10)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「サンデー毎日 臨時増刊号」
   1947(昭和22)年5月1日発行
初出:「サンデー毎日 臨時増刊号」
   1947(昭和22)年5月1日発行
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2009年4月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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