へ上げて拝んだから人に見られてしまいました。口惜しや。この大晦日に銀包みが拝めなくては明日の元旦をむかえる力がございません」
外聞もかまわず、ハラワタをねじって泣きわめきました。店の中央の土間に風呂桶をすえてのことですから、屋根裏のクモの巣を払っている小僧の耳に至るまでクマなくひびき渡ります。
「疑われちゃア迷惑だねえ。あの婆アのヘソクリが盗めるぐらいならエンマのガマ口が楽にすれらア。八ツ当りって云うが、八つ恨みに呪いをかけられちゃア命がちゞまるな。エエ。神サマ仏サマよ。オン敵退散。清めたまえ」
神仏に気勢をかけて力の限り屋根裏の煤を払うと、ポトリと上から落ちてきたものがありました。これを手にとりあげて改めますと、
「アレ。銀包みだ。これぞ婆アの銀包みだぜ。アアラ、フシギや。有りがたや。ざまア見やがれ、クソ婆アめ」と、銀包みを握って婆さんの前に駈けつけて手の中の物を突きだして見せました。
「さア、どうだ。人を疑るのもほど/\にしろ、だ。盗まれない物はチャンと出てくるぞ」
小僧は威張りたてて隠居に恨みを晴らしましたが、これを見て、折れるどころか、隠居の顔は一段と蒼ざめてひきしまり、
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