で御幣がうごく。山伏は錫杖で壇を打ったでしょうが」
「打ちましたが、それで御燈明が消えたわけではございません」
「それはな。燈明の台には砂時計の仕掛けがほどこしてある。小さな孔があって、定まった時間に定まった油の量がタラリタラリと自然に抜かれるようになっています。どれだけの時間で油の全部が抜かれてしまうかということは、時計の仕掛けだからチャンと定まっていて狂いがない。山伏はその時間を知っているから、油の尽きる直前にちょうど祈り終るようにするのです。思いだしてごらん。山伏は燈明をともす前に、まず燈明の台をなんとなくいじくっていたでしょうが」
これをきくと隠居の血相は変って、たちまち血の気はスッと落ちて、フラフラとひきつけそうになりました。
「それじゃア、あの百二十文も、かたり取られたのですか」
ギャアッという大音がして、隠居の五穴から泪があふれました。身をふりしぼって、泣きわめき、
「この年になるまで一文の金も落さず暮してきましたのに、今年になって損の上に損を重ねてしまいましたか。私としたことが、妹にもらった銀《かね》包みをただ身につけてそッとしまっておけば何事もなかったのに、神ダナ
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