リ。神仏はあるものよ。怖しや、有りがたや」
 と隠居は財布のヒモをほどいて、定めのお初穂《はつほ》百二十文《もん》敬々《うやうや》しく差上げて立ち帰りました。ところが待てど暮らせど失せ物は現れません。七日はおろか、ついに一周忌がくるというのに、現われなかったのです。

[#5字下げ]損の上の損[#「損の上の損」は中見出し]

 妙庵先生、下情《かじょう》に通じているばかりでなく、一通りは古典にも通じ、またオランダ渡りの鑑識にも通じております。話をきいて打ち笑い、
「盗人に追い銭とはそのこと。さては山伏にはかられましたな」
「いいえ。自然に御幣がうごき御燈明が消えたフシギはウソではありません」
「それはゴマ壇にカラクリがあるのです。ちかごろ仕掛け山伏と申してな。ゴマ壇にカラクリを仕掛けてフシギを見せて金をとる悪い奴がでているのですよ。松田|播磨掾《はりまのじょう》のカラクリ人形を御存知ないかな。白紙の人形が人手をふれずに土佐踊りをするのですが、仕掛け山伏はこのカラクリを応用いたしておる。御幣をたてた壺の中に生きたドジョウが入れてあるのです。錫杖で壇を打つからドジョウが驚いて騒ぎます。そこ
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