リと珠数もみくだき、真言秘密のダラニを声高に唱え、身の毛を逆立てて祈るときには、祈りのかなわぬということはない。祈りかなって七日のうちに失せ物の現われるときには、それ、その御幣がおのずからに動きだし、また燈明がおのずから消滅いたす。それが大願成就の知らせでござる。よろしいか。よッく目をとめて見ておられよ」
今でも山伏に火渡りの行事がありますが、山伏は火を渡り風をよび雲にのって通行する。病気も治すし、魔物も払う。山伏の法力というものは、昔は諸人に信ぜられ怖れられていたものです。
易者とちがって、失せ物はこれこれの方角にありますなぞと云うのじゃなくて、法力によって七日のうちに出してみせますと云うのだから、その祈りはすさまじく、身の毛がよだつようです。
身をふるわせて珠数もみくだき、はては錫杖《しゃくじょう》を突きたてて、悪魔すらもハッタと祈り伏せんばかり。
荒々しい祈りが静まると、フシギや。おのずからに御幣がコトコトとうごきだし、燈明がチョロチョロとまたたいてパッと消えた。あとは真の闇。大願成就の知らせとは云え、その怖しさと云ったらありません。
「アア有りがたや。末世とは大のイツワ
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