く、さる人の申されるには、山伏に祈ってもらうと七日のうちに必ず失せ物がでるとのことに、さっそく山伏を訪ねましたところ……」
こう云いかけてワッと泣きくずれてしまいました。悲歎の様は一様のものではありません。深いワケがありそうですから、
「それはお気の毒な。して、山伏を訪ねたところ、どういうことになりましたか」
「ハイ。世にこれほど口惜しいことがございましょうか」
隠居は泪ながらに当時のことを語ってきかせました。
[#5字下げ]お神隠し[#「お神隠し」は中見出し]
山伏は隠居の話をきき終ると、
「よろしい。それでは祈ってあげるが、まず、これへ来なさい」
とゴマ壇の前へみちびきました。燈明をともして、フスマをしめきると、昼の光はみなさえぎられて、物音も遠ざかり沈々と深夜がよみがえったようでした。
「さて、御隠居。山伏の祈りは、一祈りに身の毛は三本、身の脂は一滴と申して、おのが寿命をちぢめて祈る。祈りの数を重ねてついに身の毛身の脂が尽きはてたときには、その場にアッと叫び、ちょうど熊野のカラスが血を吐いて死するように、五穴から身の血を吐いて絶命いたす定めでござる。さればバンリバリバ
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