一家言を排す
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)恰《あたか》も
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 私は一家言といふものを好まない。元来一家言は論理性の欠如をその特質とする。即ち人柄とか社会的地位の優位を利用して正当な論理を圧倒し、これを逆にしていへば人柄や地位の優位に論理の役目を果させるのである。
 非論理が論理を圧倒するといふ微妙な人間関係は古来わが政治屋に珍重された処世術で、英雄豪傑の遺風であり、恰《あたか》も土佐犬がテリヤを圧倒するかの如き非理智的な動物的人関係の一つである。
 これは論理的訓練の不足した社会における当然な現象であらうけれど、特に我国においては非論理性を不当に評価することが甚しいやうである。我国で大人物といへば茫洋として掴まへどころのない人間といふことを不可欠の条件とし、即ち性格的な非論理性を珍重する。
 なるほど人間の存在それ自らが解きがたい一つの矛盾撞着であることも事実であらうが、かゝる存在それ自らとしての矛盾撞着は非論理的なものではなく、論理化された矛盾であつて、充分に知的なものであり、政治家的処世術としての非論理性とは自らその趣きを異にする
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