てはいたが、大別して、ダンサーらしいものと、女学校卒業の事務員らしいのと、未婚の女にこの二色があって、令嬢だの女中だのという階級の別はないようであった。
女給と分って、三人組を見直し、お客と比較してみても、やっぱり区別が分らない。服装も髪の様子も同じようで、違っているのは、女給のテーブルには支那ソバのドンブリがないことだけであった。
彼女らは額をあつめて話すかと思うと、のけぞって笑うのである。まったく、イスがうしろへヒックリかえりはしないかとハラハラする程豪放にのけぞり天井めがけて、ゲタゲタワハワハと爆笑をふきあげる。女が小平に殺される、よくもそんなことが有るものだ、と、先生は理解に苦しむのであった。
先生は、思いあきらめて、一杯だけで帰ろうかと思った。然し、一パイで帰るにしても、やっぱりいくらですか、と、いって、女給に呼びかけなければならない。それぐらいなら、もう一パイ、たべたい。一パイだけでは、食べた手ごたえが分らないのだ。
「モシ/\、モシ/\」
先生はむなしく呼んだ。それを数回くりかえした。先生は、自分が今とても悪事を働いているという罪の意識と争わなければならなかった。
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