げさせてやるんだよ。大切なことだからな」
そして、先生の枕元へ首をさしのばして、
「先生、々々」
とよんだが、先生は目をつぶったまゝ、クルクル目の皮をうごかして、うるさそうなソブリを示したばかりであった。
「先生、々々」
ひときわ高く呼びかけると先生はうるさがってフトンをかぶったが、
「フン、バカにするな。オレが何もできないと思うか」
いらだゝしく呟いたが、すると彼の想念が逆上的に混乱しはじめた様子であった。
「オレの手がふるえたと思うか」
その次には、にわかに殺気だっていた。
「ウソダ! ダマレ! なぐれ! なぐれ! パンパンをなぐれ! なぐり殺せ!」
すると叫びは、急に切なく調子が変るのであった。
「なぐってくれ! オレを! オレをなぐれ! オレをなぐれ! イタイヨ、イタイヨ、ヒドイヨ。ヒイ、ヒイ」
もうイタマシサに我慢のできなくなった学生の一人が、先生のフトンをはがして、
「先生、いますよ。パンパンをなぐって下さい。パンパンの罪ですよ。パンパンは先生にあやまりたいと言っていますよ」
先生のマブタはビクッとうごいて目をあいた。
「先生、わかりますか。先生にあやまるた
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