になっているのかも知れなかった。
 学生達は先生のウワゴトをきいて、相談した。
「先生は安パンパンを買って、カゼをひいたんだぜ。あいつら、野天でやるからな。衛生にわるいよ」
「もう先生は死ぬらしいな」
 と、一人がつぶやいた。三人はソッと目を見合せた。
 一人が大人ぶった顔をして、落着いて言った。
「じゃア、うちのパンパンをつれてきてやるさ。パンパンの罪だからな。どのパンパンでも、おんなじだい。先生にあやまらせるんだ。なぐる、と云ったら、なぐらせてもいいじゃないか。思いをとげる、ということは、大切なんだ。オレは何かで読んだことがあるよ。とても大切なことなんだ。だから、我々は――」
「ウン、もう、わかった」
 一人がいそいでうなずいて、頭をガリガリかきだした。彼は頭で物を考え出すよりもフケをかきだす方がいゝと考えているような様子であった。
 彼らは、まもなく、二人パンパンをつれて引返してきた。パンパンは二人とも十八ぐらいの年ごろらしかった。病人の枕元へ坐ると、大学生の一人が小さな声で、然し、きびしく注意を与えた。
「いいかい。病人にさからっちゃ、ダメだぜ、もう、死ぬんだからな。思いを、と
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