。然し、アキ子とその相手を羨んでいるわけでもない。つきとめてみると、要するに、なんでもないだけのことらしい。そして
「ネエ、先生。僕のところへ遊びにいらっしゃいよ。僕、パンパンと同棲していますよ。よく稼ぎますね」
「パンパンに食べさして貰っているの?」
「ちがいますよ。可哀そうだから、部屋をかしてやってるのです。三人いますよ」
「三人とも、君のいゝ人かい」
「アレ、変だなア。先生、僕たち、そんなこと、考えていないですよ。先生は大人なんだな。僕、はずかしいや」
 先生の方が、はずかしくなって、顔をあからめた。先生はふと、アキ子が、そんなふうだといゝがと考えたからだ。
 先生はパンパンと遊ぶなどゝいうことは、考えられないタチであった。助平でないわけではなく、インフレ景気に対しては無能力だと思っており、インフレの特産物と自分とを並べて眺めるだけの気持のユトリがなかったからだ。
 裏口営業も知らないのである。裏口でたった一杯のカストリも知らず、ピースを買ったこともない。最下級のインフレ景気にもツキアイのない自分だから、パンパンなどは雲上人で、とても拝謁の望みはない。
 けれども先生はムホンを起
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