の学生は、殴られた学生ではなかった。
先生の留守に、自分の持ち物を運びだす。数日かゝって、自分のものをみんな運んでから、先生のところへ挨拶にきて、
「私なんか、居ない方が、あなたの身のためよ。なまじ私みたいな女がいるから、あなたはカイ性なしの敗残者なのよ。立派な人になって下さいね。ハイ、さよなら」
と、云って、行ってしまった。
殴られた学生は、その後も、遊びに来た。彼らは、お人好しのウスバカであった。
「見ちゃ、いられないよ、なア、毎日、ベタベタしてるんだもの、ひどいよ」
と云って、アキ子と男のことを噂をしたり、大人みたいに首をかしげて、
「奥さんに家出されて、ユーウツなんて、僕たち、大人の気持は分らないなア。僕たちは、恋愛しないから、子供なのかな。然し、恋愛したいと思いませんねエ。だけど、素敵な美人と友達になりたいですね」
「恋愛と友達と違うのかい?」
「エヘ」
はずかしそうに笑う。そして、
「然し、わからないな。先生の奥さんそれほど美人じゃないと思うけど、新しく探した方が賢明だなア。もっと、ましな女が、いくらだっていらア。なア、ホラ」
彼らは先生に同情などしないのである
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