人ながら、ひっくりかえった。
それを見ると、先生はにわかに気が強くなり、三人をいそがしく殴りまわり、蹴りまわった。
一人の学生はゴメンナサイ、デモ、ナゼデスカ、と云い、一人の学生は、イタイヨ、ヒドイヨ、ヒドイデス、と言い、一人は何も言わなかった。
アキ子も路上へ現われ、とめることも忘れ、呆然と見ている。最後に先生はアキ子の両頬をパチパチ二十ほどビンタをくれると、キャアーッと泣きだす。
「出て行け。帰るな」
云いすてゝ、ピシャリと戸をしめ、鍵をかけた。
梅木先生はめったに子供をあやしたことなどないのだけれども、部屋へあがると、子供が脅えた顔をしている。いそいで、だきあげて、どれどれ、アバババ。けれども、子供はギャアと泣きだす。そうだろう。親父は蒼ざめ、かみつくような顔なのである。
けれども先生は妙に熱を入れ、子供をあやすのじゃなくて、泣き喚く機械を調節するような手ぶりでいじっているのであったが、急にあきらめて投《ほう》りだして、物も云わず、フトンをかぶってねてしまった。
これが事態を悪化させたのである。
アキ子は学生の一人の宿へ泊り、ずるずるべったり、同棲してしまった。こ
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