、月日のたつうちに、アキ子は時々外泊して、度重なるようになった。
学生たちは平気なもので、アキ子のところへ遊びにくるのである。
「昨日は奥さん、誰々のところへ、泊られたんですよ」
と、あたりまえの顔でいう。
「僕は、ふられちゃったなア。僕とこへ、いらっしゃい、と言うのにアイツのとこへ行くんだもの。アイツ、僕よりハンサムじゃないけどなア」
と相好くずして、ゲタゲタ笑う。
要するにバカではあるが、決して悪人ではないらしい。アキ子は、アラ、邪推深いわね。あなたが大人だからよ。あなたの心が汚いから汚く見るのよ。子供達は純心よ、と云う。すると、大学生も、先生、ひどいなア。奥さんをいじめたそうですね。先生は大人だから、そんな風に考えるんだな。僕たち、そんなこと、考えたことないけどなア。ズケズケと言う。ニヤニヤしながら言うのであるが、ヌケヌケという感じじゃない。どうしても低脳という感じであった。
然し、先生も、ついに怒った。自宅へ遊びに来た三人の大学生を、表へ、ひきだして、だしぬけに、なぐり、蹴った。先生は生れて以来鉄拳をふるったのは始めてだが、さいわい、相手の学生がだらしなくノサレて、三人ながら、ひっくりかえった。
それを見ると、先生はにわかに気が強くなり、三人をいそがしく殴りまわり、蹴りまわった。
一人の学生はゴメンナサイ、デモ、ナゼデスカ、と云い、一人の学生は、イタイヨ、ヒドイヨ、ヒドイデス、と言い、一人は何も言わなかった。
アキ子も路上へ現われ、とめることも忘れ、呆然と見ている。最後に先生はアキ子の両頬をパチパチ二十ほどビンタをくれると、キャアーッと泣きだす。
「出て行け。帰るな」
云いすてゝ、ピシャリと戸をしめ、鍵をかけた。
梅木先生はめったに子供をあやしたことなどないのだけれども、部屋へあがると、子供が脅えた顔をしている。いそいで、だきあげて、どれどれ、アバババ。けれども、子供はギャアと泣きだす。そうだろう。親父は蒼ざめ、かみつくような顔なのである。
けれども先生は妙に熱を入れ、子供をあやすのじゃなくて、泣き喚く機械を調節するような手ぶりでいじっているのであったが、急にあきらめて投《ほう》りだして、物も云わず、フトンをかぶってねてしまった。
これが事態を悪化させたのである。
アキ子は学生の一人の宿へ泊り、ずるずるべったり、同棲してしまった。この学生は、殴られた学生ではなかった。
先生の留守に、自分の持ち物を運びだす。数日かゝって、自分のものをみんな運んでから、先生のところへ挨拶にきて、
「私なんか、居ない方が、あなたの身のためよ。なまじ私みたいな女がいるから、あなたはカイ性なしの敗残者なのよ。立派な人になって下さいね。ハイ、さよなら」
と、云って、行ってしまった。
殴られた学生は、その後も、遊びに来た。彼らは、お人好しのウスバカであった。
「見ちゃ、いられないよ、なア、毎日、ベタベタしてるんだもの、ひどいよ」
と云って、アキ子と男のことを噂をしたり、大人みたいに首をかしげて、
「奥さんに家出されて、ユーウツなんて、僕たち、大人の気持は分らないなア。僕たちは、恋愛しないから、子供なのかな。然し、恋愛したいと思いませんねエ。だけど、素敵な美人と友達になりたいですね」
「恋愛と友達と違うのかい?」
「エヘ」
はずかしそうに笑う。そして、
「然し、わからないな。先生の奥さんそれほど美人じゃないと思うけど、新しく探した方が賢明だなア。もっと、ましな女が、いくらだっていらア。なア、ホラ」
彼らは先生に同情などしないのである。然し、アキ子とその相手を羨んでいるわけでもない。つきとめてみると、要するに、なんでもないだけのことらしい。そして
「ネエ、先生。僕のところへ遊びにいらっしゃいよ。僕、パンパンと同棲していますよ。よく稼ぎますね」
「パンパンに食べさして貰っているの?」
「ちがいますよ。可哀そうだから、部屋をかしてやってるのです。三人いますよ」
「三人とも、君のいゝ人かい」
「アレ、変だなア。先生、僕たち、そんなこと、考えていないですよ。先生は大人なんだな。僕、はずかしいや」
先生の方が、はずかしくなって、顔をあからめた。先生はふと、アキ子が、そんなふうだといゝがと考えたからだ。
先生はパンパンと遊ぶなどゝいうことは、考えられないタチであった。助平でないわけではなく、インフレ景気に対しては無能力だと思っており、インフレの特産物と自分とを並べて眺めるだけの気持のユトリがなかったからだ。
裏口営業も知らないのである。裏口でたった一杯のカストリも知らず、ピースを買ったこともない。最下級のインフレ景気にもツキアイのない自分だから、パンパンなどは雲上人で、とても拝謁の望みはない。
けれども先生はムホンを起
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