」に傍点]を説明する為に之を現在とし、対象を過去なりと説明した以上は、むしろ最後に於て「全て誤解をさける為めに」、さらに現在、過去の名称を破し去るを至当とする。のみならず前述の如く「力自身には決して過去はない。力は常に現在である」又「対象自身に現在はない。対象は常に過去である」と云ふことは明に「過去」といひ「現在」といふも便宜上の名称にすぎないことを表してゐる。何者、過去とならぬ「現在」ならば結局現在と過去は質的に相違がある。現在が過去に移り変《かわっ》てこそ過去現在未来とも云ひ得るが「永遠に過去とならぬ現在」「現在とならぬ過去」はむしろ過去でなく現在でない。只単に「力」と「対象」と云つた方が誤解をさける上に於てはるかに有利である。
従て「意識スル力」と意識の対象の外は何者もなく、意識する力は永遠に先に立ち[#「先に立ち」に傍点]意識対象は永遠に後に従ふ[#「後に従ふ」に傍点]といふことに過ぎない。「先に立つ」故に云ひ得べくんば「現在」であり「後に従ふ」故に云ひ得べくんば過去であるといふことである。
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已去無[#レ]有[#レ]去 未去亦無[#レ]去
離[#二]
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