ある力[#「力」に傍点]」を予想することも出来る。しかし我々に予想された「或人の力」は力ではなくて我々に意識されたものに過ぎない。或人の意識の力は決して我々の意識の力ではない。従てそれは力ではない。力はあくまで「能動」であつて「他動」ではない。故に力は常に一つである。予想された力は無数にある。しかしそれは前述の如く単なる客観的対象であつて、現に客観に対して働きつゝある力は常に一つである。「Aの力」にとつて「Aの力」のみ力であり、「Bの力」にとつて「Bの力」のみが力である。かくて力は常に一つのみである。然らば「意識しつゝある力」は唯一の力である。従て意識しつゝある力は当然全てを規定する必要がある。何となればもし意識しつゝある力以外に規定するものがあれば、その規定するものは当然「力」でなければならぬ。これは不合理である。故に「意識する力」は当然全てを規定し従て時間を規定する必要がある。

   三、「過去」に就て

「意識しつゝある力」は現在である。従て「意識しつゝある力」には過去と未来は存在しない。しかし「意識しつゝある力」は常に動く。常に現在を持して動きつゝある。故に動きつゝある力の跡
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