級の人が、力はいちばん強かつた。商売に失敗し、芸で身を立てようと思案中であつたから、好機逸すべからずと食堂の親爺夫婦にとりいりはじめた。お客の方へも手を廻して、関さんをすつかり悪者にしてしまつたのである。関さんくさつて、子供みたいに、家出をして、四五日行方をくらますなどといふ椿事である。
 そのうち親爺もKさんの魂胆が分かり、Kさんの前身が、何の某の身内の何の某といふ人物だつたといふやうなことも分かつて、大いに慌てはじめた。親爺悄然として僕のところへ助力をもとめにやつてきた。事面倒と見ると、万事先生に委すのである。先生そのころ碁の方にいくらか覚えができたけれども、腕力に覚えがないので、大いに弱つた。
 この碁会所は、元来僕の大精神によつて、断乎賭碁を厳禁したので、松原署の特高係Tさんといふ会員までできたほどだ。ほかの碁席はTさんを敬遠するので行けないのだ。そこでくさつたのが、友禅の板場職人高野さんだつた。山本宣治の葬式の一番先頭に赤旗を担いだ威勢のいい人物だからである。「坊ちやん」を無学にしたやうな、正義派で、勇み肌の快人物だが、この碁会所の創設から肩を入れること並々でなく、宣伝のため
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