心な常連となつた。碁会所の繁栄は暫くつづいた。
(三)[#「(三)」は縦中横]
碁会所が繁栄するにつれて、お客の中には、うるさいことを言ひだす人が、だん/\あつた。関さんの評判が悪いのである。
関さん碁が大好きだから、お客を見ると、まつさきに合戦を挑み、忽ち夢中となつて、あとから来たお客の方は見向きもしない。
ぼんやりしてゐるお客がゐても、自分の合戦を中止して、敵をゆづるといふ大精神が完全にないのである。勝てば忽ち気を良くし、いや、あなたはちよろいと納まるし、負ければ大いにいきりたつて、負け惜しみを並べ立てること騒々しい。
合戦中はつり銭をだす労力も面倒なので、あしたにしておくれやすと云つて、見向きもしない有様だつた。したがつて、よつぽど幸運なお客だけが、関さんに座布団をすすめられたり、一杯のお茶にありついたり、するだけだつた。関さんは碁席に寝泊りしてゐたが、来客が揺り起すまでは、決して自発的に起きないといふ磐石の信念を変へなかつた。
食堂の親爺は金主だから、お客のぼやきをきくたびに、焦ること一通りでない。
常連もふえて、有段者も二三あつたが、Kさんといふ一
前へ
次へ
全10ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング