に京都中を駈まわつたものだ。然し警察がよくよく性に合はないと見え、Tさんが現れると、すつかりふくれて、突然麻雀に転向してゐた。
もう今年の五月だつた。再度一大勇猛心をふるひおこして書き直しはじめた僕の長篇小説もいよいよ完成するところだつた。早く帰れと云つて、竹村書房から金も送られてきてゐた。
僕は高野さんの友禅工場へでかけていつて、事情を話し、僕の帰京後の碁席の世話を依頼した。へ、ようがす。心得ました、と言つたとたんに着物を着代へて、高野さんの大活躍がはじまつた。高野さんは勇み肌だが、人徳があるので事が荒立たない。みんな噴きだしてしまふのである。先日、関さんの機嫌も直つて、和気が戻つたといふ便りをもらつた。
高野さんは奥さんに鳥屋をやらせたことがあるので、僕の送別宴に、五六本の庖丁と、奥さんを従へて悠々現れ、我々の面前で、奥さんに鶏をつぶさせて大いに女房の自慢をし、男振りをあげたものだ。
皆さんのうち、碁に自信のない人があつたら、下洛の節、この碁席へ立ち寄つてごらんなさい。関さん相変らずお茶を飲ましてくれないだらうが、その代り、常連の誰を相手に挑戦しても、大概あなたが勝つ筈であ
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