な飲み屋の女中と別府へ心中にでかけて、ぼんやり帰つて来たりなどした愛すべき人物である。年は四十五歳。僕の眼鏡によつて、この人物を碁会所の席主といふ形にした。
上田食堂の老夫婦は単純な好人物で忽ち人にだまされ易く、碁会所の番人を置くにしても、関さんが最適と睨んだのである。この眼鏡に狂ひはなかつた。関さん以外の人だつたら、きつともつれたに相違ない色々の事情が後々起きたのである。
僕が宣伝ビラを書いた。
とりあへず食堂のお客を動員して、十名ほど会員ができた。会員の顔ぶれは、祇園乙部見番のおつさん杉本さん。別荘の番人山口さん。京阪電車の運転手宇佐美さん。もと巡査の狭間さん。友禅の板場職人高野さん。等々。いづれも自分の店のやうな肩の入れ方で、お客や来たれと待ち構へたが、力量一頭地を抜いてゐるのが斯く云ふ僕で、席主の関さんが僕に六目といふ手合だから、なさけない。
開店怱々道場破りが現れては一代の不面目と、Mといふ初段を頼んで、毎日来てもらうことにした。ところが、この初段、負けると深刻な負け惜しみを言ふので、ききづらい。
常連一同忽ち総会をひらいて、稽古を断ることにした。あとに残つた弱勢で
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