、傍観者の無気力、虚無に就て語りながら、然し彼は傲然と椅子にふんぞり返つて、およそ何物をも怖れぬやうな威張りかへつた態度であつた。たゞ、口べりに苦笑がうかんでゐたが、私をも刺殺するやうな横柄な苦笑であつた。
「君には自信がある。満々たる自信だ。君はいつも大地をふみしめて歩いてゐるやうだ。僕は君を見るたびに、反撥とあるなつかしさ、憎しみと切なさのやうなものを、いつもゴッチャに感じてゐたものだ」
彼はかう私をおだてるやうなことを言ひながら、益々傲然とふんぞりかへり、苦笑は深かまり、私を嘲笑するかのやうなふうでもある。彼はとつぜん言葉を切りかへて、
「僕は近々日本を去る。支那へ行つてしまふのさ。何物と果して訣別しうるかね」
彼は悠々と立上つて私たちにいとまをつげ、傲然と消えてしまつたものだ。
満々たる自信どころか、ひとかけらの自信、生きぬくよりどころのない私であつた。私の踏む足はいつも宙に浮いてゐたのだ。私は私自らが、人生を舞台の茶番の芸人にすぎないやうな悲しさ、もどかしさに、苦しめられたものだ。なんとも異様なむなしさだつた。彼等は私を嘲笑してゐるわけではなかつたらう。傲然先生の口べり
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