得ぬ。
青春は力の時期であるから、同時に死の激しさと密着してゐる時期なのだ。人生の迷路は解きがたい。それは魂の迷路であるが、その迷路も死が我々に与へたものだ。矛盾撞着、もつれた糸、すべて死が母胎であり、ふるさとでもある人生の愛すべく、又、なつかしい綾ではないか。
私の青春は暗かつた。私は死に就て考へざるを得なかつたが、直接死に就て思ふことが、私の青春を暗くしてゐたのではなかつた筈だ。青春自体が死の翳だから。
私は野心に燃えてゐた。肉体は健康だつた。私の野性は、いつも友人達を悩ましたものだ。なぜなら、友人達は概ね病弱で、ひよわであつたから。
葛巻はカリヱスだつた。胸のレントゲン写真を私に見せ、自分も頬杖をついて眺めてをり、どう? ちよつと、いやね、と言ふ。クスリと大人のやうな笑ひ方をする。そして、君は健康だねえ、と言ふ。私はまつたく健康だつた。然し健康な肉体、健康な魂ほど、より大きな度合ひをもつて、死にあやつられてゐるものだ。
私はまつたく野心のために疲れてゐた。
その野心は、たゞ、有名になりたい、といふことであつた。ところが私は、たゞ有名になりたいと焦るばかりで、何を書くべ
前へ
次へ
全28ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング