百姓にもどって汗をふくのである。
「ウム。何々さんも腕が上ったなア」
と見物の中でささやく声がきこえる。腕が上ったとほめられてるのは頭のはげた六十五六の老人なのだ。
四天王筆頭の使い手がナギナタを相手に戦う。ナギナタの婦人は死んだ先代二十三世の妹である。四天王は立つや否や足をバタバタ間断なく跳ねてナギナタの足払いに備えている。そしてナギナタの足払いはそれによって概ね外すことができるけれども、時々ハッシと斬られて、
「参った。完全に、やられた」
ひどく正直である。私は剣道については知らないから、他流との比較を知るために、講談社の使い手の一人K君に同行を願ったのである。私は訊いた。
「他流でも、あんなことをやりますか」
「とんでもない。何から何まで類型なしです。ちょッとだけ似ているものすらもありませんよ」
間断なく足をバタバタ跳ねて走りまわりながら斬ったりよけたりしているから、てんで剣術らしい威厳がない。満場ゲラゲラ大笑いであるが、なるほどナギナタと戦うには、こんなことでもしなければ女の子に易々と斬り伏せられるに相違ない。イノチの問題だから見栄や外聞は云っていられない。ただもう実用
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