最も強く打つ最良のフォームというものが理想型としてほぼ考えうるのである。各人の体形に合せてその理想型を消化し会得しなければならないのだが、一流のプロになるには一日少くとも五百回打撃の練習をし、さらにコースをまわり、一日中ゴルフで暮して少くとも二十年、十四五でクラブを握って四十前後に最盛期に達し技術も完成すると云われている。しかし、技術的にはついにフォームの完成しないプロの方が多いそうだ。静止しているボールを打つだけで、そうなのである。
 打たれまいと用心している人、そして隙あらば打ってかかろうとしている人に決定的な一撃を加えることは、それよりも困難にきまっている。馬庭念流が打ち下す一手に一生の訓錬をかけているのは少しもフシギではない。手だけが延びすぎた、アゴがでた、腰が浮いたと一打ごとに直され教えられて、八十の老翁が歯をくいしばって打ち下した太刀を押しつけている。それは他の道場の練習風景とはまるで違う。そして老翁の稽古が終ると見物の人たちからパチパチと拍手が起る。しかし老翁は例の残心の心得によってまだ目の玉を光らせ、相手を睨みつけながらモモダチを下して自分の席へもどる。そこでやっと元の
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