るが、容姿が美しかったり、性愛の技巧にたけていたり、天性のコケットで話術にたけ、男の気をひきたたせ、酒席のとりもちが陽気で、男の鬱《うさ》を散ずる長所がある、と云っても、これだけの長所美点全部綜合しても、献身的ということ一つ欠ければ、女が男に経済的に従属するという関係にある限りは、結局献身が最後にかつ。
 問題は、女房の方に献身が不足で、オメカケに献身がそなわる場合で、これでは女房が負けるのは仕方がない。ところが日本の女大学的女房は、形式上の女房学者が多くて、忠義と献身とをまちがえているのである。
 忠義という修身上の言葉、女大学的に説明の行きとどきうる言葉は形式的で、本当に充実した内容がないのが普通であるが、献身というのは情愛の自然に高まり発した内容があって、経済的に女を従属せしめている男にとって、男をハラワタからゆりうごかし、男をみたしうる力は、女の献身にこす何物もあり得ないものである。
 天性のコケットがいかに男を陽気にする力をそなえ性愛の技巧にたけていたって、女房に献身があって、自分にそれがなければ、いつかは男が女房の方へ帰るにきまったものだ。つまり男にサービスする商品としての
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