の堀へ身を投げて死んだ。自家用の堀だから、深くない、底に小石を敷き、山の清水をとりいれてめぐらしたものだから、キレイに澄んでいて深さよりも浅く見えるかも知れないが、雨後の満水時でも腰よりも深いとは思われない。姪は一滴も水をのんでいなかった。飛びこむ前に覚悟の激しさに仮死状態だったかも知れない。しかし、自殺には相違ない。深夜、一時と二時の間ぐらいに寝室をでて身を投げた。神経衰弱気味で、小さな弟に、
「一しょに死なない?」
と誘ったこともあったそうだ。
姪の方が菊乃さんよりも原因不明の状態である。婚約がきまって本人も満足していた時であったが、胸を病んでいた。しかし一応全快後で、病後には私のところから東京の女学校へ通っていた。明るくて、表面は甚だしくノンキな娘であった。あんまり宝塚へ通いすぎるというので私の母に叱られたことがあったが、この娘はいささかもヘキエキせず、巧みな方法で母を再々宝塚見物にひっぱりだして、いつか年寄りをヅカファンにしてしまった。ヅカ見物が公認を得たのは云うまでもない。生きていると、いくつかな。菊乃さんよりは若い。姪の故郷は長岡藩の隣りの藩に所属している。そしてサムラ
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