ベをめぐらして、競走の方を忘れてフィールドの喧嘩の一団へフンゼンなぐりこみをかけるに極ったものなのである。
 一番たしかなのは犬と一しょに主人も走れば犬も心配せずに、また喧嘩も起らずに無事トラックを一周することはいくらか確実であろう。けれども、犬と犬のオヤジと一しょに走ると、これは犬の競走ではなくて、オヤジの競走である。犬より早いオヤジがいる筈がないもの、犬券を買うお客は、犬の走力ではなくてオヤジの脚力を調べなければならんな。しかし、オヤジの脚力だけ調べたってダメだね。魚屋のアニイが愛犬と一しょに必死に先頭をきると、八百屋のハゲ頭の愛犬がハゲ頭の心臓マヒを心配したわけではないが、とにかくハゲ頭の一大事であるというので、魚屋のアニイのスネに食いいってしまう。それから後は人間と犬が一かたまりに、どういう目的不明の大闘争が展開するか、お分りであろう。最初に噛みついた組と、噛まれた組の人間と犬には各自の闘争の原因や理由が分っているかも知れんが、それを発端として各人の愛犬が各犬コモゴモ逆上熱戦を展開の後は、どの犬とどの人間にとっても自分の闘争の目的も相手も理由も全然不明である。とにかく犬人ともに
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