、犯人に非ず、こう断ずるのが至当であろう。
 しかるに、彼らが自白をひるがえした時に、その理由の追求がどこでアイマイになってしまったのか見当がつかないが、よしんば盗んだ米を運んで被害者のところへ売りに行った時にはすでに死んでいた、その供述のうち米を盗んで袋につめかえて被害者宅へついたのが午前二時であったというところまでが事実であるとしても、彼らが到着した時にはすでに被害者は死んでおって、だから犯人ではない、そういう証拠は前段の事実だけからは出てきません。ただ、そこまでの供述が正しいから、次に、彼らは土間で屍体を見て室内へ上らずにすぐ逃げたからタタミの上には足跡がなかった筈であると主張していることも再調査の必要があろう、カンタンにウソだろうと片づけるわけにもゆかぬ、ということにはなりましょう。
 彼らの身になって考えてやれば、せっかくの米を途中で捨てて逃げたのも、ヒョッとすると自分らが犯人に疑われる心配があるということで、殺人に当って指紋を残さぬために手袋を用いるだけの要心を心得た犯人が指紋よりも手がかりになり易い自分の袋に米をつめたまま捨てて行くことは首尾一貫を欠いてダラシがなさすぎる
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